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2025-03-16

Ocean Boy 200マイルトライアル(JOSA Ocean Boot Camp)

昨年末、JOSA Ocean Boot Campの一環として、北海道のOcean Boyチームの小笠原レース2025に向けたクオリファイを満たすために、200マイルトライアルを11月に行いました。理論的な解析を行って世界基準のクオリファイコースをJOSAで決め、真冬の北海道沖のトライアルに挑戦されたOcean Boyのクルー糸井さんからレポートが届きました。

文・写真:Ocean Boy クルー 糸井僚太郎氏


Ocean Boyクルー糸井僚太郎氏
Ocean Boyクルー糸井僚太郎氏

Ocean Boyは、北海道の室蘭をホームポートとするセーリングチームです。(艇種はFARR40)小笠原レース2025出場に向けて準備を進めております。

このレースの出場資格をクオリファイするため、この度200マイルトライアルを行いました。200マイルトライアルは5名のクルーで行います。

200マイルトライアルの5名

クルーの予定が合わず実施時期が延びてしまい、北海道ではオフシーズンである11月22~24日に200マイルトライアルを実施することになりました。私の外洋セーリング経験は、青函レースの60マイルが最長であり、200マイル無寄港セーリングは初めての経験でした。

私は日本最北の地、稚内市在住です。ホームポートである室蘭まで450キロ、約7時間のドライブから、私の200マイルトライアルは始まりました。

トライアルスタート時刻は、11/22(金)の21:00。

各クルーが仕事を終えてからの集合となりました。

華金の夜からセーリング出来るなんて!と、ワクワク気分で皆が集合したものの、当日の天候は最高気温5℃、最低気温0℃。寒い、、、。

11月も中旬、北海道では紅葉も終わり、冬を告げる寒波が襲来していた。

北から低気圧が室蘭へ接近しており、スタート後48時間は平均して30knot/sの風が吹く予報であった。

セールはストームジブとメインを2ポンにセットし室蘭港を出港した。

セールアップ時にマストを見上げると、透き通った満点の星空が見える。

今にもデッキに星が落ちてきそうだ。

今回の200マイルトライアルコースは、室蘭港をスタートし苫小牧へ進路を取り、苫小牧沖で襟裳岬方面へ変針し、襟裳岬手前の様似沖で室蘭へ向け変針し、そこからは一直線で室蘭港を目指す、トライアングルコースを設定した。

スタート後、20マイル地点までは風速20knot/s、クローズアビームを帆走。

この風が続けば順調に走ることができ、意外と楽に終わるかも?と考えたのも束の間。

次第に雲がかかり、月明りが消え辺りは真っ暗になってしまった。

風速は上がり、気が付けば40knot/sオーバーに。

そして風向も前に回り、角度は上りいっぱい。

風速の割には気温が低い分、空気が重たく風圧が半端ではない。

一度、暗闇から突如現れた大波に対処できず、体がふわりと宙を浮いた。

テザーを短く絞っていた為、体と船が固定され何とか転倒を免れた。

これは出航前に北田さんから教えてもらったアドバイスであった。

(出航前に、この状況を見越してアドバイスしてくれたのかと頭をよぎりました。)

船は幾度となく海面に叩きつけられ船内では早くも、ちらし寿司の様に物が散乱してしまった。(十分だと思っていたラッシングが甘かった。)

苫小牧沖まで40マイル走ったところで、日が昇り始めた。気温が低くても日光に当たると暖かい。夜の闇から解放され、何かに包みこまれるような安心感があった。

苫小牧沖のチェックポイントを過ぎ、50マイル先の様似へ向け船を変針した。

待ちに待った、追い風となり波に乗りながらOcean Boyは快走を始めた。

天高い秋空の中、左手には北海道の背骨である日高山脈が悠々たる連なりを見せる。

Ocean Boy中村オーナー(手前)と糸井氏

苫小牧~様似までのレグが今トライアルで一番気持ちの良いセーリングであった。

このレグで船酔い者は全員リセット、束の間の栄養補給を行う。

16時ごろチェックポイントの様似沖へ到着した。ここでようやく「100マイル」、折り返し地点だ。

このチェックポイントの様似から約15マイル先には襟裳岬が見える。

襟裳岬は年間平均風速が12m/sを超える国内では有数の、風の名所であり襟裳岬は北海道の船乗り界隈では難所と言われる。

難所たる由縁なのか、様似付近の海域でも三角波が発生し非常に危険な海況であった。波で船が持ち上がり、一瞬舵がスコンっと抜ける感覚。非常に嫌な感じだ。

この海域から逃げ出すように、室蘭へ向け走り始める。

ここから室蘭までは一直線で100マイル。

様似から室蘭までは、ほとんどが日没後の帆走となり気温は0℃、風速は40knot/sを超え、これまでに経験したことの無いサバイバルコンディションとなった。

それに加えて風向はクローズホールド。激しく船は叩かれ、頭の上から冷たい波をかぶる。セーリング人生で経験したことの無い過酷さに直面した。

3時間ワッチでは低体温症となり体がもたないため、急遽1時間交代に変更。

しかし終盤は一時間でも耐えられず、30分交代となった。

体を温めようと甘酒缶を用意し常に鍋で温めていたが、缶をデッキに持って上がると、3分足らずでキンキンに冷えてしまう。

何の試験の時間なんだ!と言わんばかりに苦行のセーリングであった。

様似から約12時間走り通し、ようやく室蘭の街灯が見えてきた。

ホット一息ついていると、最後の試練を用意していたかの様に霰が降り始めた。

それも40knot/sの風に乗って氷の粒が、冷えきった肌に突き刺さる。

痛くて痛くて、顔を上げられない。

下を向き、身をかがめながらラットを握り続ける。

ラットから伝わる、船のヘルムを頼りに走らせ続けた。

目をつぶった状態でも、船は意外に真っ直ぐ走らせられている(笑)

極限状態で、初めて船と自分が同期している感覚をつかんだ。

「計器類も重要だが、人間の五感というセンサーもまだまだ負けちゃいないなぁ。」みたいな瞑想(迷走)を続けているうちに、室蘭港の入り口へ到着していた。

プロッターを見るとフィニッシュしており、200マイルを走り切っていた。

キャビンにいる他のクルーにも急いで伝えたが、皆ぐったりしており、やっと終わったか~という反応であった。私自身もやった〜走り切ったぞ!という感動のフィニッシュを想像していたが、そんな余裕と体力はどこにも残っていなかった。

ようやく暖かいベッドで寝られる。その思いでいっぱいであった。

こうしてクルー全員が満身創痍の中04:00、無事に室蘭港へ着岸した。

最後の5マイルは明け方の寒さに加え、風、波、霰に雪の中でのセーリングで一生忘れられない経験となりました。少しは根性もついた気がします(笑)

今回の200マイルトライアル、感想を一言で述べると「逆境奮闘」。

終始非常に辛く、厳しいトライアルとなりました。

チームOceanBoyとして、船、船の装備、技術、クルーなど様々な面で考えさせられることになりました。

小笠原レース完走を目指すOceanBoyにとっては、レース出場のクオリファイも含め非常に大きな糧を得ました。

JOSAの皆さま、今回の200マイルトライアル実施に向けて計画、ご準備いただきましてありがとうございました。

また北田さんにおかれましては、トライアル実施に際し室蘭まで足を運んで下さりご助言いただけましたこと、大変感謝しております。

OceanBoyは小笠原レースに向け一つ駒を進めることが出来ました。

ヨットレースはスタートラインに立つまでが難しいと、よくそういった話を耳にします。その意味を現在、小笠原レースの準備を進める中で、ひしひしと感じております。今トライアルの経験を踏まえ、スタートラインに堂々と並ぶことが出来るよう準備を進めてまいります。

本200マイルトライアルに携わっていただいた皆様、ありがとうございました。

OceanBoyクルー 糸井僚太郎


JOSAは、Ocean Boyの200マイルトライアルを企画・準備し、当日は陸上からサポート。200マイルの帆走完了を確認し、認定証を発行。

計 画 30ノットを超えると思われる気象(GFS採用)を盛り込んだコースを設定

航 跡 フルノ提供のトラッキングシステム(図-1)

海 象 最高風速 35knot/s 最低風速 10knot/s 最低気温 1℃ 最高波高 3m

安 全 艇体・乗員に異常なし。

評 価 200マイル帆走完了を証明する。

    一般社団法人日本オーシャンセーラー協会 代表理事 北田 浩

注 意 本トライアルはJOSAがチームの要請により独自に企画したものである。
    全てのレースに対して効力を保証するものでは無い。

JOSA-OBC200mile-Certificate_241124-OceanBoy
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