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2021-03-10

ダブルハンドレースを目指すセーラーへのメッセージ(海外の記事から2)

文/翻訳:児玉萬平氏
先日JOSA代表の北田さんから、北九州の日本サバイバルトレーニングセンター(NSTC)でJOSA主催のワールドセーリング・シーサバイバル・トレーニング・コース(2月28日~3月2日の3日間)が開催され、無事受講者全員が終了資格を取得した旨の連絡をいただきました。 ここではヨーロッパのカテゴリー2以上のダブルハンドレースを目指す女性セーラー3名、Fastnetレース(カテゴリー2)を目指す男性セーラー1名が受講したレベルの高いトレーニングとなったようです。その様子は後日、受講した参加者からもこのJOSAブログで紹介してもらうことになっています。大いに楽しみです。 ところで、今回のトレーニングコースの特徴は日本で初めて日本人講師(サバイバルはJOSA北田代表、メディカルは森村理事)がフランスセーリング連盟認定コースの講師として全ての責任を持って取り仕切ったことです。このためには講師経験ももちろんですが相当な準備や先方との打ち合わせが続いた、と伺がっていましたので結果が出せて良かったと思います。 本来は、日本で行う同トレーニングコースはJSAFの認定であって欲しいものですが、制度整備が間に合わない中では仕方がないことかもしれません。今後、ワールドクラスの外洋レガッタに必須の資格ですので、可能な限り早い時期に本コースがJSAFによる認定制度の下で開催することが出来れば良いと考えています。 さて、前回のブログでは「ダブルハンドレースに勝つ方法」というテーマでフランスのトップセーラーが語る、いくつかのヒントをご紹介しました。 船の選択から準備、心構え・・まで、勝つことが使命とされるプロセーラーならさもあらん、と言う内容でした。翻って我々アマチュアセーラーとしてはそこまでの覚悟も資金もない、ダブルハンドレースは面白そうだが、経験も装備も高いレベルを求められるのであれば、やはりそのハードルは高いのかもしれない・・などと考えてしまいます。 そうした折、UKセールのNewsletterに紹介されたスウェーデンのセーラーFederico GarofaloのVELOCE SAILING(velocesailing.se)というブログに目が行きました。 自身の紹介によると、ヨットおたくのアマチュアセーラーで、自艇VELOCE(レース艇とは呼べない船齢15年ジャヌー32ft)でショートハンドレースを楽しんでいるという事ですが、その記事のタイトルが 「さようならローラーファーリング、ハンクスに戻ろう」 (原題:Bye bye roller furling… back to jib hanks) というもの、一瞬、「ン?」と思いました。 ハンクス?・・もちろん今でもクルージング艇や小型艇には多く使われていますが、少なくともレース艇と言われる世界では見かけなくなってから相当な時間がたっています。しかも今人気のファーリングジブを撤去してハンクスにした、という内容です。恐らく多くの皆さんはショートハンドレースをするならファーリングジブは必須アイテムだな、という思いをお持ちだと思いますが、彼はそれをあえて撤去してハンクスに替えた・・そこに何があるのか?という興味が湧いてきました。
pistonhanks_silver(ジブハンクス)

ジブハンクス

まず、彼が撤去したレース用ローラーリーフィングギアFacnorR130が写真付きで紹介されています。 「VELOCEから外したファーラーを構成するすべての部品。アルミ製ダブルトラック・フォイル、ドラム、ベースアタッチメントキット、トップスイベル、ハリヤードデフレクター、総重量10 kg。そのすべての重量はセーリングにとって不適切な場所・・バウとマストの高いところにあった」 furling system そして彼はファーリングジブについてこう言います。
  • ファーリングジブは、沿岸のクルージングやのんびりデイセーリングには最適だ。ただ残念ながら、自分は「トリムパラノイア(トリムしたがり病)」に苦しんでいる。これは、デイセーリングをするレーシングセーラーによく見られる病気だ。海岸沿いを「ただ」のんびりセーリングにするのが苦痛なのだ。
  • ファーリングジブ(水平バテンの無いセールに限れば・・)は入出港の際は素晴らしく便利だ。
  • ジブハリヤードを、展開時にフォアステイを包み込んでしまうことがある。そういう時に限って、風が上がってファーリングを巻き込み始めようとするときまで気づかない!
  • ファーリングしたヘッドセールでセーリングはしない。セールのシェイプが悪く、フットやリーチに捩れが入る。その上、リーフをするとセールにひどいシワが入るから。同様に長い垂直バテンを入れることは現実的ではない。
  • ファーリングした後のジブシートがフォアデッキの2メートル上にぶら下がっているため、ディップポールでスピネーカーをジャイブするオプションはとりえない。
  • スピンネーカーのヘッドがマストとハリヤードデフレクターの間に挟まることがよくある。これにより、スピンネーカーの想像を絶するパニックが発生する。
  • ジブチェンジの場合、ファーリングジブの場合はとても大変、苦痛が大きすぎる。軽風なら交換できるが、強風下ではセールが船外に吹き飛ばされたり波に洗われたりするため、ヘビージブに変更することが難しい。
  • ラフテンションをかけ続けないと、ラフロープは巻き上げるときにフォイルトラックから滑り落ちる傾向がある。多くの場合、行き詰まり、再び引き下げることはほぼ不可能となる。これがシングルハンドで乗っているときに起きたら・・想像できますか?
と、なるほどそうだね、と思い当たるセーラーは案外多いのでは思いますが、彼は続けてジブハンクスの利点についても語っています。 「ハンクスならどんなことが可能か?」 ハンクの付いたジブを持つことの利点の1つは、それをリーフして、良いセールシェイプを作ることができることだ。 オプションのジッパーシステムにより、セールのリーフ下部を丸めて、次の写真のようにきれいにジッパーで留めることができる。 セールのリーフ下部を丸めて、きれいにジッパーで留めることができる
  • 明らかに、ファーリングジブに関する前述の多くの課題を解決できる。
  • より良いセールシェイプが得られる。
  • より長いラフが得られる。長いラフはアップウインドで走るとき、ほとんどのパワーを生みだす所だ。
  • ドラムが有ることで、ジブのフットとフォアデッキのスペースが広く開き、そのためセールの上下で圧力が均等になろうとする誘導抵抗の大きな原因となる。ファーリングドラムがなければ、ヘッドセールのフットがバウデッキをスイープ(掃く)まで低くでき、抵抗が減る。
  • フォイルとドラムの重量は約10kg、主にバウとマスト上方に分布している。すべてセーリングにとって適切ではない場所だ。
  • (ハンクス付きのジブは)潜在的なトラブルが少なく、より効果的なセールチェンジが可能だ。私は、より多くのセールチェンジが行えることにより全体的なセーリングパフォーマンスの向上を期待している。
  • ハンク付きのジブはリーフができる、これはセールエリアを一気に縮小するための大きな利点だ。ヘッドセールを一人でリーフでき、ダウンウインドでのメインセールエリアを確保できるという夢はどうだろうか…これはもちろんファーリングでも可能だが、1)システムが故障する、2)ラフが外れなくなる、3)ファーリングする機会を失い、にっちもさっちもいかなくなる・・かもしれない。
  • ここでは、less-is-more(減らすことことで多くの物を得る)とKISS(keep-it-simple-stupid:単純に愚直に)の哲学が進むべき道だと思う。うまくいかないことはほとんどないし、簡単に点検できるから。
  • 訳者注1
  「どんなハンクスを選ぶのか?」
ウィチャード「スナップハンクス」

ウィチャード「スナップハンクス」

ピストン型ハンクス

ピストン型ハンクス

プラスティック製のソフトハンクは軽く、もちろん柔らかい。 ただし、ステーにはジブホイルがなくなるため、ハンクスをソフトにする必要はない。 その上、私はソフトハンクスを濡れた手と冷たい手、特に手袋で開くのは難しいと感じているので私の選択肢にはソフトハンクスはない。 ピストンハンクスとウィチャードの「スナップハンクス」のどちらかが選択できるが、 私はピストンハンクスにかなり慣れており、ウィチャードの「スナップハンクス」を試したことはない。 一方、スナップハンクスについて私のセールメーカーから聞いた話だが、他の船のクルーがスピンネーカーのハリヤードとガイをフォアステーに「ハンク(一緒に束ねる)」させたという悪夢のような話で私を怖がらせ、それでおのずからピストンハンクスでハンクすることになった。 ローラーファーリングを外したボーナスとして、フォアステイは完璧な状態になった。 トグルとターンバックルを備えた7mmダイフォームワイヤー(訳者注2)になったからだ。 「新しいアレンジを試すのを楽しみにしている。 新しいヘッドセールが納品され、テストしたら、必ずレポートを続ける、乞うご期待。」   というコメントで締めくくられた記事となっている。 この後Federico Garofaloのブログは「ダブルハンドレースを目指す8つの理由」というブログを載せていて、これはこれで大いに共感が持てる記事なのだが、その辺りは後日の機会に回したい。 このブログを見て思うのは、自らオタクセーラーと言うだけあってか自身の経験と条件の中から100%セーリングを楽しむアマチュアセーラーの心意気が伝わってきて、このコロナ禍のなかで悶々と過ごしている我々の気分を高揚させる何かが伝わってくる。自分の艇でこの記事の様な工夫を取り入れたらどうなるだろうか、早速、わが艇のNO4(ハンクスではないけれど)にジブリーフィングの改造を検討してみようか?他にも良いアイデアがあるだろうか?・・あれこれ想像しているだけで、いてもたってもいられなくなる。(訳者注3早く海に戻ろう! ショートハンドで海に出よう! 訳者注1 ハンクスの利点(追加) フィデリコが指摘するハンクスの利点に更に追加するとすれば、ハンクスがかかったジブは、デッキに降ろしても流れていかないことだ。これは特に荒天では大きな安心につながる。濡れて重くなったセールをキャビンに降ろす必要はなく、軽くライフラインにラッシングしておくことで済む。さらにはもう一枚のセールを展開している場合でも、一方をデッキに置いておけることもショートハンドでのハンドリングを楽にするポイントだ。   訳者注2:ダイフォームワイヤー Dyform(現在は圧縮と呼ばれる)は、従来の1×19ワイヤーの破断強度が30%以上増加し、25%少ないストレッチを特徴とするハイテク、低伸縮線リギング。従来のスウェージやスワージレス継手での使用が承認されていて、断面を見ると、特殊な形状のワイヤーがストランド断面の大きな割合を満たす形になっている。ロッドリギンをワイヤーに置き換える際に最適な代替手段となっている。   訳者注3:ダブルハンド艇の特別艤装は必須か 前回ご紹介したJPK1010「Night & Day」はファーリングジブでは無い。訳者の自艇「Thetis4」も沖縄―東海レース、パールレースなど都合7回ダブルハンドクラスで優勝しているが、リグは通常のジブだ。その場合、ジェノアは使用せず面積を落としたNo3ジブでダブルハンド証書を取得し、レーティングとハンドリングの負担を下げて楽しんでいる。ダブルハンドレースに参加するにあたっては自分の経験とスキル、その他の条件に合わせた参加の仕方を模索することで相当ハードルを下げることができると思う。
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